インタビュー 公開日:2010年7月7日(水)
三浦后美 副会長(掲載当時)part1
【紹介】
三浦后美
明治大学大学院経営学研究科修士課程修了、後に経営学博士となる。
現在は
文京学院大学大学院経営学研究科教授
文京学院大学経営学部教授
であり、また
日本財務管理学会常任理事
日本財務研究学会評議員
証券経済学会幹事
も務め、特別非営利活動法人NPOフェア・レーティング常任理事としても活動している。
経営学部教授である三浦后美氏は、現在様々な留学生支援活動を行っている。
氏の活動理念や教育に対する想いについて聞く。
アジア全体のクオリティの向上
――先生は現在、留学生の大学卒業後の進路指導などの支援活動をされています。
その支援活動を始めようと思い至ったきっかけとはどのようなものでしょうか?
三浦后美氏(以下三浦氏):
直接的に関わる留学生たちが近くにいたということが大きいですね。
文京女子大学時代、私のゼミに2,3名ほど留学生が入ってきました。それ以来、毎年1~2名お世話することとなりました。彼らとの交流の中で、留学生として日本にやってくる学生は経済的に恵まれている場合が多いということに気づいたのです。
そして、中国には、日本に留学したくても経済的に不可能という学生が多いということも知りました。
そのような学生を支援する方法はないかと考えたのがきっかけです。
いまだ支援活動は十分ではありませんが、徐々にプランを作りながら活動しています。
私の教え子である留学生が帰国後に現地の日本企業に勤めているという事や、教え子たちとのネットワークも出来てきたのでそこから次のステップに進めるのではないかと考えています。
――なるほど。
留学というのは大変費用が掛かってしまうものですから、それによって断念してしまう学生が居るというのは残念なことですね。
三浦氏:
はい。中国の経済状況というのは、夫婦共働きでもなかなか厳しい状況です。
今の日本の経済活動はグローバルに動いています。
国内の若い人たちだけを支援する教育は役割を終え、これからはアジア圏の人々全体のクオリティを上げていくために動くべき時代だと思います。
そして、日本の若者達にも、日本だけでなく異文化に触れ相互交流し、様々な問題に向き合うことでビジネスや人助けの機会を見つけて欲しいのです。
――そういった一連の支援活動の中で、やりがいを感じる瞬間とはどのようなときですか?
三浦氏:
やはり教え子達が元気に様々な仕事や環境で活躍することがとても嬉しいです。
入学式・卒業式というものは、私たち教育者にとって非常に大切な日であります。
この変化の激しい社会の中で、巣立ち、さらに成長し活躍していくであろう事をとても嬉しく感じます。
それが教師としての喜びの一つでもあります。
相反するもの同士を結びつけるものがビジネス
――留学生と日本の学生が共にいる環境とは、どのようなものですか?
三浦氏:
日本人と留学生では、氏育ち・環境も生活習慣も違います。
違う文化同士が共生していくというのは経営学でも同じことが言えるのですが、同一の基準・同一の目線で見ることで初めて明らかになる問題もあります。
物事の原則・目標、心のつながりが文化に関係なくひとつになっていく状態を、グローバル化という。
それとはまったく逆の現象も起きています。
文化が違うということは、価値観が違うということです。
視点・考え方が多元化していき、皆が支持する部分・力のある部分が伸びていくのです。
「1つの事に同一化していくグローバル化現象」と「1つの事に対して違うものが増えていき、強く自分を主張しなければ生き残れない流れ」が生まれます。
同質性と多元性であり、この相反する二つをつなぐものがビジネスなのです。
――この二面性のつながりは薩長同盟を彷彿とさせる現象ですね。
三浦氏
まさにその通りです。
薩長同盟は「どちらにつこうか」「どう動くか」と思案する人々が集まり、別々の思想であった藩同士が国の未来のために団結する、現代を凝縮した過去の事例だと言えます。
個々の主張以上に大きな船を1つの方向へ向かわせるとなったとき、ビジネスが必要になるのです。
ただし金を持った一人だけが先導するのはビジネスではありません。
利を生むだけでなく、そこに働く人々がいかに生き生きと物事を作っていけること、すなわち人間関係が大切です。
金勘定だけでは成り立たない、哲学的に言えば「人の悩みを解決すること」がビジネスです。
商いというのは、いかに人の悩みを現在の技術を使って解決するかにかかっています。
言葉の食い違いによるmiscommunication(対人コミュニケーションの不全状態)
――先生のところへの留学生はどの国からが多いですか?
三浦氏:
主にアジア、そして中国からです。
中国の学生も以前はアメリカにいっていましたが、最近では日本に目を向けてきています。
日本語を少しでも身につけることでビジネスを有利に進めようとしているのです。
国際的に活躍する人々というのは、相手国の文化や食事なども把握し、言葉も挨拶だけでも覚えようとする努力の姿勢が目立ちます。
――たった一言、日本語で「こんにちは」といわれるだけでも安心し親近感が湧くものですね。
三浦氏:
そうです、その法則をいかにビジネスに生かすかということです。
人間関係の形成にはコミュニケーションが大事なのですが、現代の日本人が特に「物事の概念」が希薄になっています。
同じ言葉を使っていながらまったく意味の違うことを語り合っているのです。
理論を話すためのルールがそもそも噛み合っていないためコミュニケーションが成り立たくなります。
たとえば「私はこう思う」と「私はこう考える」と言ったとき、この「考える」と「思う」の違いは何だとおもいますか?
――「思う」は感情的、「考える」は理論的な思考と解釈していますが、いかがでしょう?
三浦氏:
そうです、論理的か感情的かによって物の見え方はまったく違います。
たとえば象を見た時に「鼻が長い」「体が大きい」など見た部分によって違う印象を述べます、つまり「思う」ことが違うのです。
ところが「象」は「こういう物だ」と語らなければならないときは、象の全体を見て「考え」なえればなりません。
「考えている」意見にたいして「思っている」ことを話しても食い違い続けるだけなのです。
そしてそのまま諍いになり、お互いを理解しようとしなくなります。
嫌だと「思う」心を抑えて人のつながりを「考え」コミュニケーションをとる、これが今の日本人に欠けているのです。
異文化に少しでも触れること、それ自体がすばらしい経験
――留学は相当に決意のいる事で、それを考えてはいても、あと一歩を踏み出せない人も多いと思います。
特に異文化への不安などが大きいと思いますが、それに対してアドバイスはございますか?
三浦氏:
風潮として「留学」は敷居の高いものと思わせている部分が大きいようです。
たとえば「TOEIC(*)は何百点以上でなければならない」などです。
それにより留学を考えていた学生が、まだ自分にはスキルが足りないと思いあきらめてしまいます。
留学は選ばれた人たちだけのものというイメージを社会が作ってしまっていることがとても残念に思います。
どんな人でも一度は異文化に触れて感性を磨くことが大事なのです。
やることは単純でいいのです、旅行に行っておいしいものを食べるだけでも十分です。
異文化に触れることによって、自分が日常で体験してきたものとは別の世界があるということが解ります、それだけでも素晴らしい経験なのです。
そして異文化への興味を持つことで、語学などを勉強し自分を高めていけるようになります。
過去に日本は「選ばれた人しか外国へ行けない」というような時代がありましたが、皮肉なことにインターネットがグローバルを実現し、言葉が通じなくても飛んでいける世の中になりました。
ここで改めて、留学とは何かということです。
潜在的に「違うものを見てみたい」と思うことですが、点数が良くないなどにこだわらず、外国語がまったくわからなくても「外国にいってみたい」という人たちは大勢居るのです。
そういう「思い」を持つことがグローバルでは大事です。
興味が湧かなければ、人は何もしません。
もちろん準備や支えは必要ですが、なにより踏み出してみること、一歩でも進まなければ道はありません。
(*就職などで重要視される英語の共通試験)
part2へ続く
※所属、役職などはインタビュー当時